ALDH2遺伝子多型と食道がんリスク

我が国において、食道がんは人口10万に対して13.7人(男 性 23.8人、女性 4.1人)であり、それほど多い病気ではありませんが、最近、芸能人や著名人が罹患し、しばしば話題にのぼる病気です。我が国において、食道がんの90% 以上は扁平上皮癌という種類ですが、この食道扁平上皮癌の危険因子は、喫煙、飲酒、熱い飲み物や食べ物(茶粥など)の過剰摂取とされ ています。

国際がん研究機関(IARC)は、1986年発行のモノグラフvol. 38で喫煙を、2010年発行のモノグラフvol. 96でアルコール飲料を食道扁平上皮癌の発がん物質として認定しています。 

タバコの本数、喫煙年数に従い、食道扁平上皮癌の危険性は増加します、飲酒も飲酒量、飲酒年数、アルコール度数に従い、食道扁平上 皮癌の危険性は増加します。またタバコと飲酒両方たしなむ人は、食道扁平上皮癌の危険性は倍数的に増加します。

飲酒による食道扁平上皮癌発生の主原因とされているのが、アルコールが体内で分解される途中に産生されるアセトアルデヒドで、 IARCは、2012年発行のモノグラフvol. 100で飲酒に関連したアセトアルデヒドを食道扁平上皮癌の発がん物質として認定しています。

アセトアルデヒドの解毒に関与する遺伝子(ALDH2遺伝子)には活性型(ALDH2*1)と不活型(ALDH2*2)があり、日 本人の約半分はALDH2*2遺伝子をもっており、飲酒後に発がん物質であるアセトアルデヒドがたくさん体内に蓄積してしまいます。両親 から受け継いだ2つの遺伝子の両方がALDH*2である人(ALDH2*2/*2)は、ほとんどお酒が飲めませんので食道がんの高危険群 とはなりえません。片方の遺伝子がALDH2*2である人(ALDH2*1/*2)は、飲酒が可能で、習慣的な飲酒を続けると発がん物質 のアセトアルデヒドが多く蓄積するため、食道がんの高危険群となります。

ALDH2*1/*2の人を見分ける簡易的な方法は、飲酒後の顔色です。コップ1杯のビールで顔が赤くなる人は、ALDH2*1/*2の可能性が非常に高いです。今は赤くならなくても昔 は赤くなっていた人も同様です。

また、食道癌と頭頚部癌(咽頭癌、喉頭癌、口腔癌)はしばしば合併するため、頭頚部癌にかかったことのある人も食道癌の高危険群と いえます。